スチールバイクをオーダーしたことはあるかい?
WRITTEN BY川ちゅん blogスチールバイクをオーダーしたことはあるかい?
ほら、グラインデューロとかで海外のドゥープな奴らが乗っているようなやつさ。
ヨレヨレのカッターシャツの第一ボタンを開いて、どこまでも続いていく道を奴らは進んでいくのさ。
そうさ、どこまでも続いていく道を進まなけりゃダメだ。
道を進めば進むほど、君はオレゴンの地平線の近くを走っているだろう。
気に入ったバイクを作りたい。
ロードバイクに乗るのも扱うのも慣れてきて、自分の遊びが見えてきた頃合いになると、誰しも抱くその気持ち。
雑誌やWebのメディア、メーカーのカタログを眺めながら、こういう感じがいいなとか、このパーツを付けたいなと、そういった憧れを持って思い描くのではないでしょうか。
私も当然、自転車が好きな自転車人ですから、やはり愛着のもてる理想を具現化した相棒が欲しいなと思うわけです。
そんな自分がオーダーしたのはこのバイク。
こう見えてクロモリバイク。
カーボン全盛の時期に、自分の気に入った仕様やカラーでオーダーできるとはいえ、なぜ今スチールフレーム??
それは、やはり自分がシクロクロスで東洋フレームのクロモリバイクを駆って戦い、その走りの良さ、バイクを操る「楽しみ」に虜になったから……
今まで、アルミやカーボン、スチールバイク含めていろいろなモデルを所有したり、借りたりと乗ってきましたが、やはり「東洋フレーム」のバイクが、一番楽しいバイクだったからでした。
折しも時は2019年、コロンバスの創業100周年を記念した限定スチールチューブセット「CENTO」が限定で発売。
最新のテクノロジーが投入されたオムニクロム鋼のハイエンドスチールチューブが発表され、ぜひこのチューブセットを用いて東洋フレームで組み上げてほしい……
東京のイベントの際に、東洋フレームの担当者と会って「そもそもCENTOのスチールチューブでオーダーは可能か?」と問い合わせるところから、私のバイク作りの旅はスタートしました。
東洋フレームは大阪府柏原市に工場を構える自転車フレーム制作会社。
石垣社長はマウンテンバイクの祖というべき、トム・リッチー氏の下で修業を積み、かつてはリッチーやGTのOEM生産も担い、近年ではグラファイトデザインの実働&設計部隊として裏方ながら活躍を支えました。
あのゲイリー・フィッシャー氏も認める程の高品質なフレーム作りに定評があるものの、近年は自転車産業の中心が台湾へと移り、OEM生産も減退、数年前には親会社のオンワードグループからも放出され、勝どきにあった東京の営業所は閉鎖。
年度末になると時折「東洋フレームは大丈夫なのか?」という噂も聞こえてくることも……
思い当たりはないこともなかったものの、コロンバスとは直接取引がありチューブセットもお取り寄せ可能という「製作OKサイン」の連絡をもらい、さっそく大阪・柏原市の東洋フレーム本社工場まで、最初の打ち合わせに私は足を運びました。
テーマはレースでも使えるグランツアラーバイク。
そう、スプリントレーサーではなく、グランツアラー。
ブルベやウルトラディスタンスに使うことを想定しつつも、極力軽く、フットワークを良くしたいということで、ディスクブレーキではなく、リムブレーキでオーダー。
ケーブルは電動専用で内装式に、重量は若干重たくなるものの憧れのフィレットブレイズ処理をリクエスト。
コスト的な側面から真鍮ロウでのフィレットブレイズに。
(今思えば若干軽くなる銀ロウでリクエストすればよかったかも……)
ジオメトリは現状レースで使用しているビアンキ928SLを向上へ持ち込んで採寸。
それをベースに、石垣社長にアレンジしてもらう方向でオーダーを伝えました。
一般的にオーダーバイクといえば、工房に職人さんがいて、熟練の技術を手作業で作り上げていくイメージがあると思いますが、東洋フレームは「工房」ではなく「工場」
大手メーカーのOEM生産もこなす程の生産性を持った設備と規模が特徴で、スケールの大きな治具や工作機械が向上に所狭しと並びます。
しかしながら、その機械を操作するのは人間。
それゆえ大量生産が可能ながらも、一台のスペシャルマシンを作り上げることも可能。
もっとも、その規模と設備が、会社の維持コストを圧迫しているとも考えられなくもないのですが……
最初の打ち合わせが終わり、最終ロットのスチールチューブの入荷はおおよそ3か月ほど。
完成は予定では2020年の3月ごろという納期で、ピナレロ・ドグマのフレームセットとそう変わらない代金を支払い、完成を待つことになりました。
時は2019年12月。
このあと世界はどんどん変化し、この一台のスチールバイクを巡ってあらゆる困難が待ち受けていることになろうとは…
(続きます