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店長だってたまには勝つ~JCX茨城・取手ステージ

WRITTEN BY川ちゅん news

 モータースポーツ好きの自分にとって、好きなレーシングドライバーは何人か挙げられるが、その中でもとりわけ好きなドライバーといえば二人。
 80年代フェラーリF1の低迷期を支えたミケーレ・アルボレート、そしてもう一人が北米スポーツカー選手権で活躍した「ジェフ・ブラバム」だ。

 ジェフ・ブラバムは80年代末期から90年代初頭にかけて、ニッサンのレーシングマシンを駆って、何度も全米チャンピオンに輝いた、言わば「ニッサンの名手」の一人。

 彼のどこが好きだったかといえば、それはまずレース巧者だったことだ。

 彼には勝ちパターンのようなものがあり、予選では上位には付けるが決して最速を争うほどのアタッカーではなく、2列目3列目になることもままあった。

 レースもスタートすると、すぐに圧倒的なスピードで展開にに火をつけるタイプでもない。
 そつなくスタートをこなし、序盤は上位集団に位置取り、スピードに定評のあるライバルたちは彼を先行していく。

 しかし、レースも中盤に差し掛かろうというタイミングあたりから、徐々にペースアップ。
 コース上だけでなく、ピットインのタイミングや、天候状況、ライバルの動向に合わせてペースを作っていく。
 そう、序盤は自分の調子、ライバルの調子を見ながらレースを俯瞰しているのだ。

 レース終盤にさしかかると、彼はいつもトップ争いをしていた、時には同じマシンを駆るチームメイトだったり、強力なライバルだったりとの一騎打ちに持ち込む。
 そして、ここ一番のアグレッシブな走りでライバルをオーバーテイクすると、
 そこからとびぬけた集中力でライバルを突き放し……そして先頭でチェッカーフラッグをくぐる。 

 それだけではない、不利なレースでも不調なりにレースをまとめ上げ、堅実に結果を持ち帰る。
 シーズン中に大怪我をし、数レース欠場してもチャンピオンに輝いた年もあったように記憶している。

 日本では知名度の低い彼だが、学生の頃の自分にとってジェフ・ブラバムはヒーローの一人だった。

 自分もシクロクロスのレーサーとして、競技に取り組んでいるが、レース展開のお手本は子供のころに見た「ジェフ・ブラバム」の走りだ。

 周りをよく見る、自分の調子も見る、そして中盤から仕掛けていく。
 あまりうまくいかないことも多いが、でも、自分の脚質や気質に合ってるレースクラフトだと感じている。

 9月いっぱいで緊急事態宣言も明け、無事にJCX開幕戦の茨城取手ステージは開催。

 ここ数年、私はずっとカテゴリー2を走っていたが、今シーズンからは年長者カテゴリーであるマスターズクラスへ転換。

 エリートクラスに上がれれば良かったのだが、今シーズンは所属チームの地元土浦で全日本選手権が開催されるのもあり、スタートグリッドに選手を並べたいというチームのリクエストや、自分自身も全日本選手権出場という目標もあり、より現実的なカテゴリーへクラスチェンジすることにした。

 マスターズカテゴリーは上から1~3クラスと実力別に分けられてはいるが、私は昨年までのC2での出走実績もありマスターズ2(CM2)への付け出し出走となった。

 もちろん目標はクラス昇格、CM1に上がり全日本出場権を得ることだ。

 コンディションは上がり切ってはいないものの、できる限りの準備は進め、バイクや体のシェイクダウンも完了。
 まだ6割ぐらいと準備不足は否めなかったが、得意コースの小貝川冒険ランド特設コース、十分にチャンスはあるだろうと楽観視はしていた。

 レース2日前に台風が直撃。

 前日も散発的に夕立があった都合、迎えた当日のコンディションは水を多く含んだマッドなもの。
 天気は晴れて気温も高く、午後になればかなり乾いてアガるだろうとは感じたが、自分の出走時刻は午前8時10分という第一レース。
 舗装路も長く、普段は高速コースとして定評のあるレースだが、残った泥の処理がレースの明暗を分けるだろうなと感じた。

 そして、はっきり言って悪天候や泥の多いレースは得意だ。

 今まで荒天やヘビーマッドで開催されたレースでは、シーズンベストに近いリザルトも出している。
 フィジカルに不安はあるが、勝利、昇格の好条件はそろっているように感じた。

 朝の試走はそこそこに終えてすぐに準備。
 空気圧は高速コースというのも意識して前後1.60Barとやや高めだが、マッドタイヤを装備。
 林間セクションやヘアピンで積極的に攻め込むために、センターノブのタイヤをチョイスした。

 スタートは3列目。
 ここのコースは第1ターンの立ち上がりまでに前へあがらないと、その後のスラロームセクションで渋滞に付き合わされてしまうので、それまでにトップが見えるような位置へあがる必要がある。
 幸い、1コーナーは広く、立ち上がりのラインに自由度があるので神経質になる必要はない。

 合図が切られてクリートキャッチ。
 スタートはまずまず、あまり良いポジションではなかったが第1ターンは思ったよりも周りが手前で踏みやめていたので、スルスルと上位へ進出。
 最初のカーブはやや苦しいラインだったが、何とか耐えきり4番手程までジャンプアップ。

 コース序盤のスラロームセクションは様子を見るつもりだったが、思ったよりもライバルに隙があり、一人、また一人とパス。
 コース中盤の舗装路の直線に向かう頃には自分は先頭に躍り出ていた。

「展開が早い!!」

 正直こんなに一気に前へ上がるつもりはなく、いきなり前へ出てしまったものだからどうしてもポジションキープの「守り」のペーシングになってしまう。
 以前、序盤に先頭に出て、終盤に差し込まれてしまったレースが頭によぎる。
 前を追うなら、レースペースと自分の調子を照らし合わせ、レースを組み立てられるが、ペースを作る前に自分が先頭ではどうも居心地が悪い。

 そうもワタワタしていると、案の定直線区間の終盤でRoppongiの選手が追い付いてきて自分を抜いていった。
 直線で逃げ切るのはやはり自分の足では厳しい。

 ライバルに差をつけるなら……

 低速のヘアピンを曲がり、コース終盤にある50mほどの泥沼のセクションへ。
 ここで勝負するしかない。
 自分はあえて泥の深みへハンドルを切り、ペダルを踏みこんで加速した。

 泥セクションのコツはとにかく踏み抜くこと、そしてやや腰を引きバイクのBB周りへ重心をのせること。
 失速しやすいので、泥をかき分けるようにとにかく踏み抜く。
 ぬかるみにビビって足を止めていてはいけない。

 ライバルを交わすと躊躇せずにペースを上げる。
 そして1周目から先頭でスタート地点へ帰ってきた。
 過去の反省から、振り向き後方との差をコントロールしながらペースを刻む。

 スラロームセクションは力まずに、しかし集中してハイペースを維持しカーブを捌く。
 バリアやキャンバーでは逆にやや余裕をもって、確実にこなす。
 部の悪い直線では、あえて少し余裕の持ったペースで心拍をコントロール、しかし休み過ぎないように後方との距離を測る。
 そして、マッドセクションでは思い切った突っ込みで、ペースを上げてリードを作る。


 コース脇ではチームの監督が「18秒差だ!勝てるぞ!」と発破をかけてくる。
 直線の長いコースなだけに、全く安心できず、常に圧倒的なスピードで迫られたら……という恐怖が脳裏によぎる。

 しかし、その心配は杞憂となった。
 最終ラップ、最終コーナーを立ち上がり、後方を振り向く、近くにライバルはいない。
 最終直線になって初めて勝利を意識。
 踏み込むことはしなかったが、そのままペースを崩さずゴールイン

 結局2位争いは終盤かなりペースを上げ、ゴールした時には5秒差しかなかったが、それでもうまくレースをコントロールできたなと感じた。

 これでマスターズクラスのトップカテゴリーCM1へ昇格。
 無事に全日本選手権への出場権を獲得できた。

 レース後いろんな知り合いに労いの声をかけてもらい、レースで勝つとこうも普段と違うのかと思い知ることとなった。
 もっとも昨年までのライバルには「お前なんでマスターズ走ってんねん」というツッコミもありましたが…

 とはいえ、フィジカルはまだ6割程度。

 全日本選手権は12月、それまでにはもっと仕上げて悔いのない、胸の張れるレースを展開することが目標です。

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